外側大腿皮神経痛の治療

【外側大腿皮神経痛とは】

外側大腿皮神経痛という故障は外側大腿皮神経という末梢神経の傷害。この神経は、腰椎の2・3番から始まって、股関節の全面を鼠径靭帯という靭帯のトンネルの下をくぐって腿の外側の皮膚へ伸びる知覚をつかさどる神経だ。

腰椎や鼠径靭帯部で締め付けられることで知覚鈍麻や異常知覚(チクチクと痛む)といった症状が現れる。

外側大腿皮神経痛の治療|徒手医療協会
腰椎や鼠径靭帯部(↑〇の部分)

鼠経靭帯直下での傷害は、きつくベルトを締め続けたケースや極度の肥満を呈しているケースで生じやすいと考えられている。治療としては神経の締め付けを開放し、傷ついた神経線維を正常な回復に導いていく。

【症例】

5年以上、左ももの外側の皮膚がチクチクと痛み続けると相談にいらっしゃった細身のAさん。病院では心身症を疑われ、整骨院では腰椎の故障だと言われたとのこと。しかし、なかなか改善が見られず…。そんな時にとよたま日記「腿の外側がピリピリと痛む:外側大腿皮神経痛」の記事を見つけ、自身の症状は『まさにこれだ!』と来院を決心されたそうだ。

しかし…発症から5年以上続いているとなると『後遺障害かもしれない』という思いが頭をよぎる。Aさんの期待が大きく見えるだけに、思った結果につながらなかった場合のガッカリした顔を想像すると少しだけ気が重くなったりもするが、症状が後遺障害であるかどうかは治療してみなければ分からない。

やることは一緒。当たり前にできることを当たり前にやるのみだ。

いつものように全身の機能評価を始める。まずは腰椎の故障なはないのかと診てみる。しかし、脊柱をどんなに動かしても症状に変化はない。腰椎部の動きもよく、どうやらこの部分の問題ではないようだ。続いて鼡径部(上前腸骨棘の内側あたり)との交差部位(図の〇の部分)を調べる。するとAさんは眉間にしわを寄せて痛がる。

「腿に痺れが広がったりしますか?」と聞いてみると首を縦に振る。これは鼠経靭帯でのチネルサイン陽性(外側皮神経痛のサイン)。

『なんだ、普通の外側大腿皮神経痛だな…』と拍子抜けする私。ここで見る限りごく教科書的な状態だ。これがなぜ5年以上も見過ごされたのかどうも釈然としなかったが、ともあれ原因部位は特定できた。あと問題となるのは、治療に対して傷害された神経組織がどの程度のリアクションを返せるか、だ。

後遺障害なのか、あるいは回復の余地があるのか、答え合わせに治療を掘り下げていく。まず、神経と靭帯の癒着を調べる。

『うん、いい感じにへばりついとるね。』『これって、実に教科書的な大腿外側皮神経痛なんじゃない』と、心のなかでまた拍子抜け。

さっそくDTMで癒着をはがしてみたところ、どうやら症状も軽くなるようだ。5年以上続いた症状のわりに治療への反応はフレッシュなAさんの外側皮神経。どこに行っても打つ手が見つからなかったと聞いていたので、いささか拍子抜けな感もあったが、回復の兆しを見出すことができてよかった。

セルフケアとしてDTMを伝え、初回の治療は終了した。あとは経過を追ってゆくことになるのだが、帰り際にちょっとしたおまけを見つけた。Aさん、タイトなジーンズを履いていらした。本人もうすうす気が付いていたのかもしれない。

「このジーンズが悪かったんでしょうか?」とAさん。

曰く、いつもタイトなパンツをはいているのだとか。そのズボンをはいたまま足を組んで座り続けでもすれば、確かに。ベルトラインの締め付けを少し緩める工夫をしてもらうよう付け加え、今日の治療を終えることとなった。

(文責:非営利型一般社団法人徒手医療協会 代表理事古川容司)