スイッチバックテクニック 開発者インタビュー


手技療法「スイッチバックテクニック」とはどのような治療手技なのか。スイッチバックテクニックの理論や効果、技術開発に至るまでのエピソード、テクニックをお伝えすることに対する思いをご紹介しています。
(聞き手)トワテック株式会社編集部
(初出)Towatech research 2015/01 https://www.towatech.net/research/articles?serial_id=85


筋膜ユニットへのアプローチで機能障害を改善する「スイッチバックテクニック」とは

――まずは、古川先生オリジナルの技術である「スイッチバックテクニック」とはどのような手技なのかをお聞かせください。

古川 一言でいえば、筋膜を対象とした複合技法です。最も大きな特徴は、機能障害を起こしている部分だけをターゲットにするのではなく、共働関係を持つ筋膜同士を一つの機能単位(ユニット)として捉え、そのユニット全体にアプローチしてゆく点にあります。

――なぜユニット全体をターゲットにするのでしょうか?
スイッチバックテクニックDVD
古川 例えば、一部の筋肉が過度に緊張して縮んでいるとします。
緊張した筋肉に引っ張られて骨の並び(アライメント)が崩れますが、これに対して隣接し共働関係を持つ筋膜たちが引き伸ばされながらバランスを取ります。一方で縮み、一方で引き伸ばされた筋膜が、崩れた姿勢でありつつも骨格を安定させています。この状態はまた、ユニット全体としての長さを保とうとしている、という見方も出来そうです。いずれにせよ、相互の影響で収縮・弛緩が自由でなくなるわけです。

この時、引き伸ばされた位置関係のままで働かざるを得なくなった筋肉は傷つきやすく、ここが痛みの出所、つまり「患部」になりやすいんですね。

しかし、この引き伸ばされて「患部」となった筋肉にアプローチすることで緊張を取り除こうとしても、一次的な緊張を取り除かなくては緊張を解くことが難しいんです。通常の治療では、こうした状態は長さの短い側から手を入れて、その後で必要に応じて引き伸ばされた側、つまり患部へ手を入れてゆきます。ところが、こうした一次的緊張と二次的緊張の関係性がユニット上に複数展開されている場合があり、こうなると話は簡単にはゆかなくなります。一方の緊張を解いている間にもう一方の緊張部位からの影響で、再び患部の緊張が戻ってしまう。堂々巡りを繰り返すことになります。それならば、ユニットを全体的に弛緩させることで緊張関係をリセットしてから正常な緊張関係を取り戻すよう働きかけよう、という発想に至ったわけです。

――相互作用による障害を、関わり合う広い範囲を対象として正常な状態へと導いてゆく、ということですね。この技術を考案したきっかけは何だったのでしょうか?

古川 以前、変形性膝関節症で通院していたある女性の治療がきっかけです。最初は脚全体の機能の回復を視野に入れた施術をしていたのですが、日によって効果が安定しない。

そこで「何を診落としているんだろう」と女性の身体を改めて診なおしたところ、痛みのある脚とは反対側の肘が外反していることに気が付いたのです。そのとき骨盤を支える筋膜のユニットについて思い出しました。その文献には骨盤を中心として体幹から大腿部の筋までの記載しかなかったのですが、私はきっと、もっと末梢の、つまり手先から足先までの連続性があるに違いないと考えていたものですから、もしやと思って腕に対して治療を行ったところ、痛みもなくスッとしゃがめるようになったのです。

――膝の痛みの原因は、実は腕にあったということですか?
一般社団法人徒手医療協会 代表古川容司
古川 その通りです。先ほども述べましたが、一部の筋肉の緊張が他の筋肉に波及し、原因とは遠く離れた場所に障害が現れることがあります。このケースではそれが膝でした。その時に、傷害された筋肉を単体ではなくユニットで捉えてゆく必要性に気が付いたのです。こうした経験からスイッチバックテクニックの構想が生まれたのです。

――日々の臨床での気付きと研究から編み出されたテクニックということですね。

古川 私たちは治療を続けるうえで、必ず治療が上手くいかない場面に直面します。そのときに「症状固定」の可能性を考えつつも、本当はなんとかなるんじゃないか、今の自分の常識では見つけられない何かを診落としているだけなんじゃないかと、常にフラットな視点で自分の治療を俯瞰するんです。すると、思いもよらない気付きがある。そうして蓄積していった技術と知識を大勢の治療家に知ってもらい、業界全体を盛り上げる手助けができればと考えています。

――古川先生のセミナーは、毎回半数もの受講者がリピートをするほど好評だそうですね。

古川 ありがとうございます。セミナーではアンケートを取っているのですが、「明日からの治療が楽しみになった」といった声を頂けると嬉しいですね。もちろん稀に否定的な意見をいただくこともあります。私はそうした意見も大事にしたい。全体の学びの効率化に資すると感じればその指摘をクリアする事には大きな意義があるからです。

何よりも、参加された先生方の臨床での実効性を念頭に置いた情報提供に努めて毎回のセミナーに臨むようにしています。

――セミナーでは実技を重視しているとのことでしたが、どのように指導されているのですか?

古川 受講者同士でペアを組み、お互いの技術を試し合う時間を多くとっています。メカニズム、テクニック、評価の仕方までをお伝えしてその場で実践してもらう流れです。1回あたり20~30人でセミナーを行っていますが、1人1人に直接指導することで、受講者全員に満足してもらえるよう努めています。

――教える側も教わる側も、非常に密度の濃い時間になるのですね。受講者からよく受ける質問はありますか?

古川 「スイッチバックテクニックはどんな疾患に有効ですか?」といったものです。私はいつも「使い方次第で何にでも対応できます」とお答えしています。というのも、どのテクニックにも言える事なのですが、テクニックはあくまで治療手段の1つであって、例えるなら大工の七つ道具のようなものなのです。先ほどの質問を大工仕事に例えるなら「このノコギリはどんな家を建てるのに有効ですか?」となるかもしれませんね。テクニックは治療の道具であるとの観点に立てば、治療者のアイデア次第でいかようにも応用が利くということです。スイッチバックテクニックは複合技法ですので汎用性の高い道具であると言えます。

――特定の疾患を治療するための技術ではなく、その人の手技の幅を広げる道具の1つということですね。それを自身の治療に留めず、セミナーやDVDを通じて広く伝えたいと思われた理由は何でしょうか?

一般社団法人徒手医療協会 代表理事 古川容司
古川 私たちの役目は、故障のために日常生活に不自由がある患者さんの受け皿になることです。しかし多くの場合、初対面となる患者さんは、こちらの専門家としての力量に対して疑いの眼差しを向けてきます。「こいつは本当に治せるのか?」「騙されるんじゃないか?」と…。

もちろん治療を通じて、そうした疑念や不安はほどけてゆくものなのですが、いったい何が患者さんたちにそうした疑いを持たせているのでしょうか。

後日談として聞かれる言葉で多いのが、「どこに行っても治らなかった」「ただ通わせられるだけだった」「治らないとこっち(患者の過ごし方)が悪いと叱られた」といった感想です。患者さん側の誤解ももちろんあると思いますが、治療家側の「治せないことの言い訳」「開き直り」と受け取られていることが多いようです。

ポツリポツリと聞かれる言葉から察するに、治療家あるいは治療業界に対して「治せない」「治せないことを誤魔化す」といった偏見が根底にあるのだと思います。

私たちの治療は患者さんとの二人三脚で紡いでゆくものなのですが、それには患者さんに信頼を得ていることが望ましいわけです。私たちの仕事の障壁がこの業界への不信感にあるとするならば、業界全体がプロとしての技量はもとより、仕事に対する姿勢をより高い水準で示すことで応えて信頼を積み上げてゆく、これに尽きるのではないでしょうか。

もはや自分だけが治せる、ではダメなんです。まず、専門家の前提として、患者さんがどこを訪れてもあらかたの問題は解決できること。そして、各自の得意分野が強みとしてあること。さらに、患者さんにとって最適な選択として、より専門的な処置ができる技師に患者さんを紹介することができるような有機的な連携を取ることができれば、業界全体が徹底した患者本位の対応ができるプロ集団として認められると思うのです。

このような環境を創れたら、多くの先生がもっと伸び伸びと、そしてやりがいに満ちた仕事ができるようになると思うんです。そんな時代がくる事を願って、草の根の活動としてセミナーをしています。

――そのためには、長年の研究の成果でも惜しみなく公開していこうということですね。

古川 もちろんです。これだけ情報が開けた社会ですので、見つけたものを囲い込もうとする方がナンセンスだとも感じます。使える!と思ったものはどんどんシェアしていった方がお互いにとって有意義です。仮に私が技術をすべて提供し尽くしても、求め続けているうちはまた新たな発見が待っているでしょう。その発見からまた新しい技術も生まれると思います。興味を持ち続けられるうちは枯渇することはないと思います。だからこのテクニックは門外不出にするのではなく、むしろ「使ってください」と大勢にシェアしていきたいんです。DVDを原価で販売しているのもこれが理由です。1度見ただけで満足せず、技術に慣れてきたころに改めて見直してほしいですね。そうして一層技術を掘り下げ、自分のものにしてもらいたいと思います。

DVDも含めて、セミナー活動を通じて発信する情報が、それを受け取った皆さんのひらめきや発見の種となることを願っています。


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